『ビジネス法務』2024年12月号の「Lowの論点」では「企業不祥事における役員の善管注意義務」(執筆:中村信男教授)と題して、TOYO TIRE株主代表訴訟事件判決を例に、不祥事発生後の取締役などの事後対応について、どうあるべきかの解説があります。
- Ⅰ はじめに
- Ⅱ 参照ケースとしてのTOYO TIRE株主代表訴訟事件判決
- 1事案の概要
- 2裁判所の判断
- Ⅲ あるべき有事対応
- 1取扱製品等に係る基準違反等が疑われる場面での対応
- 2不祥事の関係機関等への報告・一般公表
- Ⅳ おわりに
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
本記事では、企業不祥事が発生した際に取締役等の役員が取るべき事後対応の在り方について、TOYO TIRE株主代表訴訟事件を例に解説がなされています。
取締役や執行役(以下、単に役員といいます。)は、会社に対し善管注意義務等(会社法330条、民法644条)を負っており、自社及びその子会社の業務執行に係る意思決定及びその執行が適正かつ適法に行われるよう確保することが求められています。もし、役員が自社又は子会社における法令違反等の不祥事に直面した場合、当該不祥事に対する事後対応の内容・タイミングについて、当該善管注意義務に照らし、適法性が判断されることになります。
TOYO TIRE株主代表訴訟事件について、子会社が製造した製品について、建築基準法の基準に適合しない商品が製造されていることが判明した際に、役員による出荷停止措置や国土交通省への報告、公表が遅れ、会社の信用失墜等を招いたことについて、役員の善管注意義務違反が問題となりました。判例の解説は割愛しますが、結論としては、社内調査の状況を踏まえ、出荷停止をすべきタイミングで出荷停止の指示をしなかった点や報告、公表が遅れた点につき役員の善管注意義務違反が認められました。
企業不祥事に対する役員の対応について、不祥事の内容・態様に応じ対応が異なるものの、一般論として、企業不祥事の兆候がある場合、役員は、善管注意義務により当該事実の調査と調査結果に基づく適正な対処の要請・指示及びその監視等を行わなければなりません。例えば、自社製品が法令に適合していない可能性がある場合、まず、初動対応として迅速かつ的確な事実調査を行う必要があります。その上で、法令に適合していないことが判明した場合、販売先や製品利用者への被害拡大を防止する観点から速やかに、会社に一時的に損失が生じるとしても商品の出荷の停止や出荷済みの製品の回収対応を取ることが考えられます(製品回収の費用や違約金等が発生しうるものの、他方で迅速な対応により会社の信頼性やレピュテーションが回復することにも繋がるため、中長期的に見れば企業価値にプラスの効果が生じる可能性があります。)。また、企業不祥事の公表についても、法令の要請の有無、調査状況、公表をしないことによるリスク(取引先や利用者への損害の発生・拡大等)を踏まえ、適切に対応する必要があります。
本記事では、TOYO TIRE株主代表訴訟事件を踏まえ、企業不祥事における役員が取るべき対応についてより詳しい解説がなされています。この機会に是非ご一読ください。
弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)