第63回目は、アメリカン・エアラインズ事件(東京地裁令5.6.29判決)です。
本事案では、Y会社で満60歳の定年に達した従業員Xが、定年後の再雇用契約を申し入れたところ、Y会社から再雇用契約を拒否されました。そこで、Xは、Y会社に対して、Y会社には再雇用契約の申し込みに対して承諾する義務があると主張して、XとY会社の間で労働契約が成立していることを確認する訴訟を提起しました。
本件では、Y会社の就業規則において、満60歳で定年退職となる旨の定め、定年退職者が引き続き勤務を希望した時は、1年の契約の更新制で再雇用する定め、ただし、定年の時点で事業縮小、人員整理、組織再編等により、職員の職務が削減されたときには再雇用の対象とはしない旨の定めがありました。
このような場合に、Y会社がXの再雇用を拒絶することはできるのでしょうか。
Xが満60歳に達したのは、令和2年12月でした。Y会社は、航空旅客業を営む会社で、この頃、新型コロナウイルスの影響で、旅客需要が著しく減少し、Y会社は、労務費を削減するため、正社員を含めた人員削減施策を押し進めていました。その一環として、定年退職者の再雇用制度の中止、削減できる定年退職者のポジションは廃止し、後任は補充しないなどの方針が定められていました。なお、Y会社において、Xさん以降の定年退職者についても同様に再雇用はされませんでした。
本件について、裁判所は、Y会社が、コロナウイルスによる旅客需要の著しい減少の影響を受け、再雇用制度の中止等の方針を定めていたことに鑑み、Y会社の就業規則上の、「定年退職者が引き続き勤務を希望した時は、1年の契約の更新制とし再雇用する」、「ただし、定年の時点で事業縮小、人員整理、組織再編等により、職員の職務が削減されたときには再雇用の対象とはしない」とするただし書の事由に該当するとして、Xの主張を退け、Y会社の主張を認めました。
また、裁判所は、労働契約法第16条に基づき、「解雇は、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」となるとのXの主張に対して、定年後の再雇用契約の成否には、労働契約法第16条の解雇の定めは適用ないしは類推適用されないとして、Xの主張を退けました。
もっとも、裁判所は、労働契約法第19条2号に基づき、「有期労働契約の期間満了時、契約が更新されるものと期待する合理的な理由がある場合で、契約の更新を拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ため、労働契約が成立するとのXの主張に対しては、定年退職後の再雇用契約の成否には、労働契約法第19条2号の適用ないしは類推適用の余地はあるとしました。
しかしながら、適用があるとしても、本件では、Y会社の就業規則上、「事業縮小、人員整理、組織再編成等により、職員の職務が削減されたとき」は定年後再雇用の制度は適用されないことが明記されており、その上、Y会社の社内ニュースで、コロナウイルスの影響により、経費削減、人員削減を行うことを説明していたというのであるから、Xが一定の期待を有していたとしても、そのことが合理的な理由に基づくものとは言い難いと裁判所は判断しました。加えて、コロナウイルスの影響による経営状態の悪化に対応するため、労務費の削減政策として、定年後再雇用制度が中止されていたものであり、このような理由で定年後再雇用されなかったことが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当とは認められないとまではいえないと判断しました。
結果として、裁判所は、XとY会社との間には定年後再雇用契約が成立したとは認められないとして、Xの請求をいずれも棄却しました。
いかがでしたでしょうか。本件は、定年後再雇用を会社側が拒否したことが適法とされた興味深い事例でした。本事例から、就業規則の定め方や、再雇用(ないしは更新)の拒絶の理由や相当性というものが、いかに重要であるかがわかります。
定年後再雇用の採否にお困りの際は、ぜひ本判決を参考にしていただけますと幸いです。
弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)
札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。