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【旬の判例】~第1回 「レジェンド元従業員事件」

第1回目は「レジェンド元従業員事件」です。

退職者の競業避止義務違反が争われた事件

Aさんは保険代理店X社の営業マンでした。同業のY社に転職した後2か月以内に、それまでX社と契約していたB社に営業をかけ、更新のタイミング
でB社の保険代理人をX社からY社にのりかえさせたという事案です。

なお、B社は、X社に入社する前からのAさんの顧客でした。

AさんはX社に在職中、「退職後、同業他社に転職した場合、X社の顧客に対して営業活動をしない」ことなどが記載された誓約書を提出していました。

X社は誓約書に基づく競業避止義務違反として、Aさんに損害賠償請求訴訟を提起しました。

裁判は一審と二審で判断がわかれました。

一審は、X社の請求額の約80%を認めました。

二審は、X社の請求を全額認めませんでした。

競業避止の約束をしたとしても、それが全面的に認められるものではないことはよく知られているところですが、100%無効となるわけではありません。

一審のように限定的に有効となる場合はありますし、二審の判断も本件の特殊性(Aさんの既存顧客への営業)が配慮されたものといえます。

転職後に前職での競業避止義務違反が争われた場合、本人のみならず、使用者責任として転職先の会社も紛争に巻き込まれることになり、事案によっては会社も損害賠償責任を負うことになりますので、注意が必要です。

第一審の主な理由は、

・本件競業避止の約束は、Aさんの既存顧客か否かを問わず、一律に、期限の定めも、何らの代替措置もなく、Aさんが営業活動をすることを禁止するものであるから、Aさんの営業の自由を奪うものであり、そのすべてを有効とすることは、公序良俗に反して許されない

・ただし、転職後間もない時期に、競業Y社においてX社の顧客に対して営業活動をすることは、在職中の職務懈怠を強く推認させる

→競業会社に転職後まもない時期のAさんの営業活動を制限することは、必要かつ合理的な制限

→制限期間は、AさんがX社在職中、2か月先までの契約を更新するように指示されていたことを踏まえると、少なくとも2か月間とするのが相当

∴本件の競業避止の約束は、AさんがX社退職後2か月の間は、Aさんの既存顧客を含むX社の顧客に対する一切の契約締結に向けた営業活動をしてはならないことを合意する限度で有効

→2か月以内に営業し、B社の契約を変えさせたので競業避止義務違反

逆転判決となった二審の主な理由は

・Aさんの既存顧客については、顧客の獲得はAさんが行っており、X社のAさん既存顧客からの収益についてはAさんの貢献が大きい

→Aさんが既存顧客に対しても営業活動をできないとなると、その不利益は極めて大きい

・競業避止義務を負わせることについて、金銭交付等の代替措置がない

→X社在職中のAさんの給与・報酬も大きな金額ではなく、代替措置とはいえない。

∴Aさんが既存顧客に対して営業活動を行うことも禁止することは公序良俗に反する

少なくとも、既存顧客に対する営業活動のうち、顧客から引き合いを受けて行った営業活動で、Aさんから連絡を取って勧誘をしたとは認められないものについては、競業避止の約束の対象にならない。

代表弁護士 小幡 朋弘(おばた ともひろ)

第二東京弁護士会所属。2005年弁護士登録。2019年代表弁護士就任。北海道出身。

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