第11回目は「みずほ銀行事件」です。
Xさんは、株式会社みずほ銀行(以下「Y社」といいます。)において、対外秘である行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に漏洩したこと等を理由として懲戒解雇され(以下「本件懲戒解雇」といいます。)、Y社の退職金規定に基づき退職金の支払いを受けられなかったことに関し、Y社に対し、本件懲戒解雇により精神的損害を被ったと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに、①首位的に本件懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認及び賃金等の支払いを、②予備的に、仮に本件懲戒解雇が有効であるとしても、退職金を不支給とすること(以下、「本件不支給決定」といいます」)は許されないと主張して、本件雇用契約に基づき、退職金等の支払いを求めました。
本件における主な争点は⑴本件懲戒解雇の有効性、⑵退職金支払い請求権の有無及びその額です。⑵退職金支払い請求権の有無に対する判断については1審と2審で判断が大きく分かれたことがポイントです。
1審では、⑴について、「本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。」と認め、⑵について、「退職金・・・を不支給とすることができるのは、労働者が使用者に採用されて以降の長年の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく審議に反する行為がある場合に限られると解するのが相当である」とした上で、Xによる各違反行為は、「長年の勤続の功を相応に抹消ないし減殺するものといえるが、これを完全に抹消ないし減殺してしまうほどの著しく審議に反する行為であったとまで評価することは困難であり、本件不支給決定は、・・・退職一時金及び・・・退職年金をそれぞれ7割不支給とする限度で合理性を有すると見るのが相当である」としました。
これに対し、2審では、⑴については1審を引用しましたが、⑵については「懲戒解雇事由の具体的な内容や、労働者の雇用企業への貢献の度合いを考慮して退職金の全部または一部の不支給が信義誠実の原則に照らして許されないと評価される場合には、全部または一部を不支給とすることは、裁量権の濫用となり、許されないものというべきである」として退職金不支給の適法性についての判断基準を示しました。
その上で本件については「Xの行為は、Y社の信用を大きく毀損する行為であり、悪質である。また、現実に雑誌やSNSに掲載されて一般人にアクセス可能となった情報は、通常は金融機関(銀行)から外部に漏えいすることはないと一般人が考えるような種類、性質のものであったから、その信用毀損の程度は大きく、反復継続して持ち出し、漏えい行為が実行されたことも併せて考慮すると、悪質性の程度は高い」として、「Xが永年Y社に勤続してその業務に通常の貢献をしてきたことを考慮しても、退職金の全部を不支給とすることが、審議誠実の原則に照らして許されないとは言えず、裁量権の濫用には当たらないというべきである」と判断しました。
そして、退職金の全額不支給には、「当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である」とのXさんの主張につき、本判決は、「勤続の功績と非違行為の重大さを比較することは、一般的には非常に困難であって、判断基準として不適当である」と判示しました。
2審である本判例は、1審の判断枠組みにつき不適当であると判示している点で注目されるべき判例と言えます。
本件は情報持ち出し及び情報漏えいを理由とする懲戒解雇の有効性が争われた事案ですが、近時は、従業員の犯罪行為を理由とする懲戒解雇の可否に関するご相談が増えております。
就業規則における懲戒解雇事由にあたるかから、検討が必要ですので、ご不明点がございましたら是非ご相談ください。
(弁護士 櫻井 彩理)