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【旬の判例】~第19回 「ホテルステーショングループ事件」

本件では、㋐労働時間と、㋑休業手当について、争われました。

Xさんは、ホテルステーショングループ(以下、「Y社」といいます。)において、客室清掃等を担当していました。Xさんは、始業開始時刻よりも早く客室清掃業を行い、かつ、休憩とされていた45分間の時間には、他の社員より呼出しを受けた際に、いつでも対応できるよう、別室で待機していました。
そこで、Xさんは、㋐始業開始前の準備時間や、実作業に従事せずに待機していた時間が「労働時間」にあたるので、Y社に賃金を支払うよう請求しました。

まず、㋐の前提として、Xさんの行為が、労働基準法の「労働時間」にあたれば、Xさんは、労働基準法24条に基づいて、Y社に賃金を請求することができます。
労働時間とは何か?という点につき、裁判例は、「使用者の指揮命令下に置かれていること」すなわち、労働者の行った行為に、①業務性および②業務の拘束性があれば、労働時間にあたると判断しました。そして、②の業務の拘束性の判断においては、労働から完全に解放されていなければ、労働時間にあたると判断しました。

結論として、裁判例は、Xさんの行為が労働時間にあたると判断し、Xさんの賃金請求権を認めました。
その理由は、Xさんがバスタイルやフェイスタオルを畳んだり、リネン室に運んだり、ベッドシーツや枕カバーを1部屋ずつの組にするといった行為は客室清掃業に該当するため、①業務性があること、そして、Xさんがほぼ全ての出勤日にこれらの行為を行ったにもかかわらず、Y社がこれを黙認していたので、結果として、Y社はXさんに黙示の指示を行ったとして、②業務の拘束性があった、と判断したからです。
また、Xさんは、休憩時間にいつでも仕事できるように待機していた行為については、労働から完全に解放されておらず、かつ、Y社もこのことを黙認してたことを理由に、①業務性、②業務の拘束性を認めました。

また、本事案では、㋑休業手当についても判断されました。
本事案では、Y社が新型コロナウイルスを理由に、Xさんの労働時間を短縮したため、Xさんは、労働時間の一部が休業になったことを理由として、Y社に対し、休業手当の支払を請求しました。

休業手当は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」が該当すれば、手当の支払請求権が発生する、と労働基準法26条に書かれています。
つまり、休業手当は、使用者が原因で休業となった場合に発生します。
裁判例は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の意味を広く捉えていますが、他方で、自然災害などの不可抗力の場合は休業手当が発生しないとしています。

結論として、裁判例は、Y社による労働時間の短縮は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」にあたり、Xさんの休業手当の支払請求権を認めました。
その理由としては、次のとおりです。裁判例は、Y社に有利な事情として、Y社の売上が、新型コロナウイルスによって減少し、かつ、人件費を削減する必要性があった状況を認めました。しかし、Y社は、事業の全てを休業させておらず、売上の減少の原因は、新型コロナウイルスが直接的なものではなく、外出自粛等といったことが原因でした。また、Y社は、売上減少対策として、一般的な経営状態の悪化の場合と同様の処理として、毎月の売り上げを予測し、どの従業員を休業させるか、何時間休業させるか、といった裁量を行使していました。
以上のことから、裁判例は、Y社の売上減少は不可抗力ではなく、純粋な売上の減少対策であり、Xさんの請求を認めました。

(弁護士 西口 阿里沙)

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