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【旬の判例】~第34回 「REI元従業員事件」

第34回は、「REI元従業員事件」です。

本件では、会社と元従業員との間で締結された『退職後の競業行為禁止合意書』に違反して、元従業員が会社の客先の取引先事業者で就業を開始したことが、不法行為に当たるとして、会社が元従業員に対し、損害賠償請求を求めた事件です。

1、事案の概要

従業員Yは、令和元年5月から令和2年8月まで、システムエンジニアとしてX社において就業していたが、同年9月末日をもってX社を退職した。

その後、Yは、同年10月2日から、X社の客先と競業関係にあるA社において就業を開始していたが、同年同月9日、X社から交付された『退職後の競業行為禁止合意書』(以下「本件競業禁止合意書」という。)に署名をした。

X社は、YのA社での就業は、本件競業禁止合意書に違反するものであるとして、Yに対し、損害賠償を求めた。

2、従業員の競業避止義務

在籍中の従業員は、労働契約に基づく付随義務として、当然に競業避止義務を負うことになると解されています。

一方で、退職後の従業員は、競業避止義務を当然に負うことになるわけではありません。退職後の競業避止義務については、労働契約において別段の定めがある場合や、退職の際に別段の合意書を作成した場合に初めて競業避止義務が生じることになります。

さらに、退職後の競業避止義務については、退職した従業員の職業選択の自由への配慮から、事業者側の秘密保持の必要性と、従業員が被る不利益等を考慮して、競業の制限が合理的な範囲にとどまっている必要があり、合理的な範囲を超えた競業制限は、公序良俗に反して無効とされる可能性があります。

具体的に、競業制限の合理性は、①競業制限の必要性、②競業制限の期間、③競業制限の地理的範囲、④制限される職種の範囲、⑤代償措置の有無等を基準に判断されることになります(詳解労働法[第2版]水町勇一郎945頁 東京大学出版参照)

3、本判決の内容

本判決は、これまでの裁判例と同様に、本件競業制限が合理的な範囲に制限されたものになっているかという観点から検討し、下記の要素に言及したうえで、本件競業制限は、合理的な競業制限を超えた無効なものと認定し、X社のYに対する損害賠償請求を認めませんでした。

①競業制限の必要性
X社は、システム開発等の独自のノウハウを有しているとは言えないし、YがX社からそのようなノウハウの提供を受けた事実もない。
したがって、本件競業制限の目的は明らかではない。

③競業制限の地理的範囲
地理的範囲の制限はない。

④制限される職種の範囲
原告の取引先のみならず、原告の客先の取引先と関係がある事業者まで含まれており、禁止される就業先は極めて広範なものになっている。

⑤代償措置の有無等
代替措置は講じられていない。

②競業制限の期間
1年間。

まとめ

以上に鑑みると、競業制限の期間が1年間にとどまっているとしても、本件競業制限は、必要かつ合理的な範囲を超えているものであり、公序良俗に反し無効である。

4、おわりに

今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。

秘密保持(NDA)に関連して従業員の競業制限に関する契約書や覚書が作成されることは多々ありますが、むやみに競業制限を広げてしまうと、本件のように、当該競業制限に関する合意は公序良俗に反する無効なものと判断されかねません。

退職後の競業制限を検討されている会社様につきましては、今一度慎重にご検討いただき、必要であれば弊所までご相談いただけましたら幸いです。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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