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【ビジネス法務】特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)の解説

『ビジネス法務』2023年10月号の実務解説は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)の解説」(執筆:野田学弁護士 白石紘一弁護士)です。この法律は、いわゆる「フリーランス」に業務を発注する場合に広く適用される可能性があり、実際に大きな影響を及ぼすと予想されます。現時点で判明している本法の内容と実務への影響が解説されています。

  • Ⅰ 成立の背景・経緯
  • Ⅱ 本法の内容
  •  1保護対象者・義務者
  •  2取引の適正化に関する内容
  •  3就業環境の整備に関する内容
  •  4エンフォースメント等
  •  5国が行う相談対応の体制の整備等

 <PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>

1 フリーランス新法の成立

近年、フリーランスとして働く労働者が増加傾向にあるといわれています。フリーランスとは、会社員のような組織に属さず、従業員を使用しない事業者をいいます。ある調査会社によれば、2021年でフリーランス人口は1670万人にまで到達したとされており、労働人口の24%を占めるとされています。

このようなフリーランスは、従業員ではなく受託者にすぎないため、労働法による保護の対象とはならず、一方で発注者との関係では交渉力や情報収集力の格差から交渉上劣位に置かれることも多く、様々なトラブルが生じていました。そこで、フリーランスの働き手を保護するために、令和5年4月28日付でフリーランス新法が成立しました。

フリーランス新法は大きく、取引の適正化と就業環境の整備を目的としており、独占禁止法・下請法、労働法の両面の規律をあわせもつものとなっています。

2 取引の適正化

フリーランス新法は、取引の適正化に関して、①給付内容等の明示、②支払期日等、③禁止行為の3つの類型の規律を設けました。

①フリーランスに対し業務委託をした場合、直ちに、給付の内容その他の一定の事項を書面または電磁的方法により明示しなければなりません(法3条)。明示内容は、給付の内容、報酬の額、支払期日であると明文化されていますが、他にも受託・委託者の名称、業務委託をした日、給付の提供の場所、給付の期日等が想定されています。

このことから、今後、フリーランスへの委託を行う際は、法に適合するよう契約書や合意書をその都度用意しておくことが望ましいです。

②フリーランスに対しての報酬の支払期日はフリーランスから目的物を受領してから起算して60日以内にできるかぎり短い期間内に定められた期日に報酬を支払わなければならないと定められました(法4条1項、5項)。

これにより、支払期日が不当に遅くなる場合には、法に違反する可能性が生じるため、フリーランスの不利益にならないよう適切な支払期日を定める必要があります。

③フリーランスの利益を害する一定の行為の禁止等が遵守事項として定められました。

具体的には、理由なく給付物の受領を拒否すること、理由なく報酬を減額すること、理由なく返品を行うこと、相場に比べ著しく低い報酬を定めること、理由なく物を購入させ、役務を利用させること、委託者のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること、理由なく契約の内容を変更させ、またはやり直させることを禁止しました。 フリーランスに委託する際は、これら禁止事項に抵触していないか確認する体制を整えることが重要といえます。

3 就業環境の整備

次に、フリーランス新法は、フリーランスの就業環境の整備を委託者側に義務付けました。

就業環境の整備に関する内容としては、①募集情報の的確な表示、②妊娠、出産もしくは育児または介護に対する配慮、③業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等、④解除の予告・理由の開示といったものになります。

①委託者は、広告等によりフリーランスの募集に関する情報を提供するときは、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず(法12条1項)、また、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(法12条2項)。

例えば、報酬について実際の支払い予定額より高く表示したり、あるいは高いと誤解されるような表示をしたりすることのないよう注意が必要になります。

②委託者は、委託先のフリーランスが妊娠、出産もしくは育児または介護と両立しつつ委託業務に従事できるよう、育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければなりません(法13条1項)。

具体的な必要な配慮とは、妊婦検診を受診するための時間を確保したり、従業時間を短縮したりすることや、育児、介護等と両立可能な就業日、時間としたり、オンラインで業務を行うといったことが想定されています。

③委託者は、フリーランスに対するハラスメント行為(パワハラ、セクハラ、マタハラ等)により就業環境が害すること等が生じないよう必要な体制の整備その他必要な措置を講じなければなりません(法14条1項)。また、フリーランスが当該相談を行ったこと等を理由として、不利益な取り扱いをしてはならない(法14条2項)とも定められています。

具体的な必要な体制・必要な措置とは、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、その方針を従業員に周知、啓発することや、ハラスメントを受けた者に向けた相談担当者を定めること、外部機関に相談対応を委託すること、ハラスメントが発生した後の迅速な事実関係の把握、被害者に対する配慮措置などが想定されています。

④フリーランスに一定の期間継続的に委託する場合は、その契約を解除しようとする際、少なくとも30日前までに、解除の予告をしなければならない(法16条1項)と定められました。また、解除の理由の開示請求を受けた場合は、遅滞なく解除の理由を開示しなければなりません(法16条2項)。

現状、即時解除を定めている契約書もしばしば見られるため、法に抵触している場合は、契約書のひな形の見直しも必要になってきます。

4 おわりに

以上、新たに成立したフリーランス新法の解説について紹介させていただきました。本法律に違反していることが発覚した際には、当局が立入検査、指導、勧告、公表、罰金などの措置をとることも定められています。当局による措置は、企業側にとっては大きな不利益となるため、法に抵触しないよう法律の内容を十分に把握しておくことが重要といえるでしょう。 フリーランス新法の解説の他にも、ビジネス法務10月号には興味深い記事が数多く掲載されています。この機会に、ぜひ一度ご覧いただけますと幸いです。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)

札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

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