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【旬の判例】~第36回 「Uber Japan事件」

第36回は、「Uber Japan事件」です。

我が国では、労働組合法において、「労働者」には、労働組合を作り、労働条件の維持改善をするために団体交渉をする権利が認められています。

本件では、ウーバーイーツの配達を行う人ら(配達パートナー)が、ウーバーイーツを運営するUber Japanに対して、労働組合を作り、事故の補償や報酬の引下げ等について団体交渉を行いました。これに対し、Uber Japanは、配達パートナーは、「労働者」に該当しないとして、団体交渉を拒否しました。

そこで、労働委員会において、配達パートナーが労働組合法上の「労働者」に該当するかが争われました。

まず、ウーバーイーツとはどのようなものかというと、Uberというアプリケーションソフト(アプリ)上で、飲食店と、料理を注文する人(注文者)と、飲食物を注文者に配達する人(配達パートナー)とを結びつけ、飲食物を注文者に届けることを実現するといったサービスになります。

本件では、このような配達パートナーが「労働者」に該当するかが問題となったところ、Uber Japanは、配達パートナーはプラットフォーム(飲食店、注文者、配達パートナーを結びつけるサービス基盤)の提供先である顧客に過ぎないと主張しました。

これに対し、労働委員会は、労働組合法の趣旨及び性格に照らし、Uber Japanと配達パートナーとの間の関係において、①労務供給関係と評価できる実体、②事業組織への組入れ、③契約内容の一方的・定型的決定、④報酬の労務対価性、⑤業務の依頼に応ずべき関係、⑥広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑦配達パートナーの顕著な事業性、等の諸事情があるか否かを総合的に考慮して、「労働者該当性」をすべきという判断基準を示しました。

そして、本件各事情に当てはめると、①Uber Japanは配達パートナーにプラットフォームを提供するだけにとどまらず、配達パートナーガイドに違反すれば、アカウント停止措置や契約解除を示唆する等、配送業務の遂行に様々な形で関与している実態があり、配達パートナーが純然たる「顧客」に過ぎないとみることは困難であり、むしろ労務を供給していると評価できる可能性があることが強く推認されると判断しました。②ウーバーイーツ事業は、99%が配達パートナーによる配達により行われており、多くの配達パートナーを確保する必要があるといえるため、配達パートナーは、Uber Japanの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたというべきであると判断しました。③配達パートナーがサインする契約書はUber Japanの用意する定型的な様式のものであるし、運営ルール等はUber Japan側が一方的に決めたものであり、配達パートナーに個別に交渉できるような仕様にはなっていないことから、契約の内容決定及び変更につき対等な関係性は認められず、Uber Japan側が一方的・定型的に決めたものであると判断しました。④配達パートナーの報酬は、配送したことの対価である配送料であることから、配達パートナーが自ら行う労務提供に対する対価としての性格を有するものであると判断しました。⑤配達パートナーはアプリをオンラインとするか否か、どの場所で配達業務を行うかは自由であり、配達リクエストを拒否しても、具体的な不利益を受ける旨の定めは特になく、業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいえないが、場合によっては、配達パートナーの認識として、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれるような事情もあったと判断しました。⑥配達パートナーは、どの時間帯にどの場所で配達業務を行うかは自由であったため業務を行う時間帯及び場所についてUber Japanからの拘束を受けているということはできないものの、配達に応諾した場合は、配達ガイドに基づいて業務を行わなければならないため、広い意味でUber Japanの指揮監督下におかれていたとみることができると判断しました。⑦配達パートナーは、バイクや自転車等の配達手段を自ら保有しているものの、独自に固有の顧客を獲得したり、他人労働力を利用することはできず、自己の才覚で利得する機会はほとんどないし、配送事業のリスクを負っているともいえないことから、配達パートナーが顕著な事業性を有しているということはできないと判断しました。

最終的に、労働委員会は、以上のような事情を総合的に勘案すれば、本件における配達パートナーは、Uber Japanとの関係において労働組合法上の労総者に当たると解するのが相当であると結論づけました。

労働委員会は、上記の結論に基づき、Uber Japanに対して、配達パートナーからの団体交渉に応じなければならないこと、自らが団体交渉を拒否する不当労働行為を行ったことを認める文書を社内従業員の見やすい場所に10日間掲載しなければならないと命令しました。

いかがでしたでしょうか。本件によって、ウーバーイーツの配達パートナーも労働者として認められることが明らかとなりました。「労働者」に当たるか否かによって労働組合法以外の労働に関する法律の適用の可否も変わってくるため、労働者該当性は会社側にとっては注意しておかなければならない事項になります。本判例を参考に、契約する相手方が労働者に該当するか否かを判断する一助になれば幸いです。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)

札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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