第48回は、東京地判令和3年12月13日(労判1290号91頁)の【バークレイズ証券事件】です。
本件では、解雇の有効性について判断されました。
1 事案の概要
Xさんは、金融商品取引業を営む株式会社であるY社に雇用された後、平成30年6月14日をもって解雇(以下「本件解雇」といいます。)されたため、Y社に対して、本件解雇が無効であると主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めました。
これに対して、Y社は、原告のポジションが削減されたのは、組織の合理化と人員の見直しが行われた結果であるなどを根拠に、本件解雇が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるから有効であると主張しました。
2 整理解雇の有効性判断
使用者が経営上の必要性から人員削減を行うためにする解雇を、整理解雇といいます。
この整理解雇は、労働者の労働能力の欠如を理由とする解雇などと異なり、労働者側の事由を直接の理由とした解雇ではなく、使用者側の事情に起因する解雇であることから、一般の解雇と比べてより具体的で厳しい制約を課す法理が裁判例上形成されています。
具体的には、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性を考慮し、解雇が就業規則所定の事由に該当し、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かにより判断されます。
3 本件の争点
本件解雇は、労働契約法16条に基づき無効となるかが主たる争点となりました。
4 裁判所の判断
①人員削減の必要性
Y社グループ全体の業績が悪化していたとは評価できないこと、Xさんが所属していた部門においても、一時的に収益が低下したものの、収益が増加し結果として事業規模を縮小することなく存続していることなどから、本件解雇を正当化するに足りるだけの人員削減の必要性は認められない。
②解雇回避努力
Y社は、Xさんが所属していた部門以外の3つの部門に連絡をとり、Xさんの配置転換が可能かどうかを検討しているが、その他の部署への配置転換を検討していない。
また、Xさんは、Y社との間で、職種を限定する合意はされていないこと、Y社の就業規則においては、解雇にあたり、配置転換のみならず、職位の降下やこれに伴う賃金や賞与の減額が検討されるべきであるが、そのような検討はされていない。
③人選の合理性
Xさんが所属していた部門の人員構成の合理化を図る手段としては、当該部門に配属されていた他の従業員に対し、希望退職を募ったり、配置転換を命じたりする方法も考えられるところ、本件解雇にあたり、これらの措置が検討された形跡は窺われず、対象者選択に関する客観的かつ合理的な基準が定められたとは認め難い。
④手続の相当性
本件では、手続の相当性について明示的な判断はされませんでしたが、一般的には、労働者との協議がされていたかなどが求められます。
5 まとめ
本件では、Y社から本件解雇が無効であると判断されれば、国際企業が日本におけるビジネスを撤退し、又は、日本において高い職位を設けることができなくなるとの主張もされています。
これに対し、裁判所は、使用者において、国際企業における人事労務管理と整合する合理的な内容の労働契約や就業規則を締結又は制定するようにしたり、解雇の有効性を基礎づける事実を裏付ける客観的な資料を適切に作成し保存したりすること等によって対処することができると指摘しております。
社内制度の整備等をすることにより、解雇など労働者の地位に大きな影響を与える場面に備えることが大切です。
弁護士 武藤 雅之(むとう まさゆき)
第二東京弁護士会所属。
2023年弁護士登録。2024年PLAZA総合法律事務所入所。神奈川県出身。