弁護士法人PLAZA総合法律事務所 PLAZA LOW OFFICE

【旬の判例】~第52回 「そらふね元代表取締役事件」

第52回は、そらふね元代表取締役事件(名古屋高裁金沢支部令和5年2月22日労判1294号39頁)です。

本件は、従業員の管理監督者性及び従業員を管理監督者として取り扱った上で従業員に残業代を支払わなかった代表取締役の損害賠償責任(会社法429条)が争われた事案です。

管理監督者とは、職場において、「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法41条2号)、言い換えれば、事業主に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者を指します。管理監督者は、自らの労働時間を自らの裁量で律することができ、その地位に応じた高い待遇を受けられることを根拠として、労基法の労働時間規制が適用されません。そのため、管理監督者において、原則として、残業代は発生しません。裁判例上、管理監督者該当性について、上記の制度趣旨を踏まえ、①経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること(経営者との一体性)、②自己の労働時間について裁量権を有していること(労働時間の裁量)、③他の一般の従業員と比較して、その地位と権限にふさわしい待遇が与えられていること(賃金等の待遇)を踏まえ、管理監督者該当性が判断される傾向にあります。

次に事案の概要について、XさんはA社の従業員であり、YさんはA社の代表取締役でした。Xさんは、平成31年3月1日から令和2年1月10日まで、A社の主任ケアマネージャーでした。Yさんは、Xさんについて、主任ケアマネージャーとして、他のケアマネージャーらに対し業務の指示を行うなどしていたことをもって、Xさんを管理監督者として取り扱い、Xさんに対し残業代を支払いませんでした。その後、A社は令和2年6月30日に廃業しました。そこで、Xさんは、A社が既に廃業していたため、Yさんに対し、Xさんに残業代を支払っていないことについて任務懈怠があるとして、残業代相当額の損害賠償請求を行いました(会社法429条)。これに対し、Yさんは、Xさんが管理監督者に該当するため残業代が発生していない等と主張しました。

裁判所は、Xさんの管理監督者該当性について、まず、①経営者との一体性について、Xさんは、A社にかかる営業会議に出席し、A社の売上や見通しの報告、雇用等についての提案を行っており、A社の経営方針に一定程度の影響力を有していたことが認められる(第1審)。他方で、Xさんが従業員の採用に関与していたことを裏付ける証拠は無い他、Xさんは、他の従業員がどの顧客を担当するかを差配しておらず、従業員の休暇申請等について、承認権限を有していたわけでもない(控訴審)。よって、経営者との一体性が乏しい、と判断しました。

次に、②労働時間の裁量について、主任ケアマネージャーの就任前後で、Xさんの労働時間が大幅に増加している。また、出社時間についても主任ケアマネージャーの就任前後で、午前8時30分と変動がない他、A社から原則として、午前8時30分から午後5時30分のシフトが割り当てられている(第1審)。よって、労働時間の裁量も乏しい、と判断しました。

最後に、③賃金等の待遇について、確かに、主任ケアマネージャーの就任前後で基本給が増額されているものの、就任以前に受領していた残業代を加味すると、増額がほとんどなされていない(第1審)。管理監督者としてふさわしい待遇であるか否かは、従前支給を受けていた残業代の支給を受けられなくなってもなお、管理監督者にふさわしい待遇であるかという観点から検討すべきものである(控訴審)。残業代を加味した場合、増額がほとんどなされていない以上、管理監督者に見合う待遇は支払われていない。

裁判所は、Xさんについて、①経営者との一体性が乏しく、②労働時間の裁量も乏しく、③管理監督者に見合った賃金が支払われていないことを理由に、管理監督者該当性を否定しました。その上で、Xさんについて、残業代が発生しており、残業代を支払っていないかったYさんについて、善管注意義務違反が認められると判断しました(第1審も控訴審も同じ結論)。

本判決の特徴として、②、③について、管理監督者扱いをされる前後の労働時間・賃金を比較している点が挙げられます。労働者数が多い会社の場合、他の労働者との比較により②、③が判断される傾向にあります。他方で、本件のように、労働者数が少ない企業において、他の労働者との比較という手法を取ることが困難です。そのような場合において、本判決の手法が取られるものと思われます。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

最近のコラム