第55回は、ホテルテトラ事件【秋田県労委 令4.10.24命令】です。
本件では、労働組合からの団体交渉の申し入れに対する会社の対応が、不当労働行為(労働組合法7条2号)に該当するものであるとして争われました。
1 事案の概要
申 立 人:秋田コミュニティ・ユニオン。
秋田市内に拠点を構え、74名の構成員から成る組織(以下「本組合」)。
被申立人:有限会社ホテルテトラ。
秋田市内を含め、全国に19の営業所を有している(以下「会社」)。
時系列
令和3年4月13日:第1回団体交渉開催
本組合が会社に対し、同年5月中の第2回団体交渉開催を要求
同年4月28日:会社から本組合に対し、同年6月24日に第2回団体交渉を開催することを通知
同年6月23日:会社が、社長が入院したことを理由として、翌日の第2回団体交渉をキャンセル
本組合は社長を不出席とした代理人による開催を求めたが、会社はこれに応じなかった
同年7月20日:第2回団体交渉開催
本組合は会社に対し、賃金が減額となった理由を説明するように求めたが、会社は何ら合理的な根拠を示さなかった
同年8月12日:本組合は、不当労働行為救済の申立てを行った
2 命令要旨
労働組合法7条2号は、使用者に対して、団体交渉を拒否することを禁止したものにとどまらず、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たるべき誠実交渉義務を課しているものであると解されている。
そのような解釈からすれば、使用者は、団体交渉の日時や場所を決める準備段階においても、相手方に対して誠実に応答する義務を負っているものと考えられる。
これを本件についてみると、会社は、本組合からの連絡に対する回答期限を遵守せず、団体交渉の期日を直前で先送りにするなどの対応によって団体交渉の進捗を大幅に遅らせているのであり、会社の一連の対応は、不誠実なものであったと言える。
また、労働組合法7条2号の誠実交渉義務には、労働組合の要求や主張に対する回答や主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示して説明するなどの努力をすべき義務も含まれていると解されている。
この点、本組合が開示を求めていたのは、就業規則やタイムカードの写しなど、容易に準備・開示ができる性質のものであるにもかかわらず、会社はこれらの速やかな開示を怠り、本組合の質問事項に対して、本組合を納得させることができるような説明はほとんどしていないのであり、これらの会社の態度は、不誠実なものであると言わざるを得ない。
したがって、本件における会社の行為は、不当労働行為(労働組合法7条2号)に該当する。
3 おわりに
今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。
労働組合からの圧力に頭を悩ませている会社様は、(労働組合の活動の衰退もあり、)以前よりは少なくなったかと思いますが、いつ何時、外部ユニオンに駆け込んで団体交渉を求めてくる社員が現れるかは分かりません。
万が一そのような事態が生じてしまった際には、放置することなく、迅速にご対応をいただけましたら幸甚です。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。