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【ビジネス法務】労働条件の明示・裁量労働制

『ビジネス法務』2024年8月号の連載は「労務コンプライアンス最前線」です。その中で「労働条件の明示・裁量労働制」の第2回があります(執筆:岩野高明弁護士)。2023年の労働基準法施行規制の改正により、労働条件の内容にいくつかの変更が加えられました。裁量労働制に関しても見直しがされています。これら2点の改正点について概説されています。

  • Ⅰ 労働基準法施行規則の改正
  •  1労働条件の明示に関する改正の概要
  •  2有期労働契約における通算契約期間または更新回数の上限
  •  3就業の場所と従事すべき業務の変更の範囲
  •  4無期転換申込みに関する事項および無期転換後の労働条件
  • Ⅱ 裁量労働制の省令・告示改正
  •  1裁量労働制に関する改正の概要
  •  2専門業務型裁量労働制の対象業務の追加
  •  3専門業務型裁量労働制に関する労働者の同意

<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>

1 はじめに

本稿では、2023年の労働基準法施行規則の改正により、労働契約の締結時に使用者が労働者に明示する必要がある事項にいくつかの変更が加えられました。裁量労働制についても改正がなされましたが、本稿では、労働基準法施行規則の改正についてのみ解説いたします(元執筆者:岩野高明弁護士)。

2 労働基準法施行規則の改正

(1)労働条件の明示に関する改正の概要

2023年の労働基準法施行規則(以下「労基則」といいます。)の改正により、2024年4月1日以降、労働契約の締結に際して、使用者が労働者に対して明示しなければならない労働条件として、①すべての労働者の就業の場所および従事すべき変更の範囲、②有期労働契約において、通算契約期間または更新回数に上限の定めがある場合における当該上限、③有期契約期間内に労働者が無期転換申込みをすることができる場合における無期転換申込みに関する事項および無期転換後の労働条件が挙げられます。

(2)①就業の場所と従事すべき業務の変更の範囲について

従前は、明示すべき労働条件として、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」が定められていましたが、この規定に、「就業の場所及び従事すべき業務の変更を含む」という文言が加えられました。

この文言が加わったことで、使用者は就業場所や従事すべき業務が変更される可能性があるかどうか、変更可能性ある場合にはその範囲を労働契約締結の際に明示する必要があり、これは労働契約締結時のみならず募集時も同様です。

厚労省では、労働条件通知書の記載例として、「就業場所の変更の範囲」について「会社の定める場所」、「担当すべき業務の変更の範囲」について「会社の定める業務」という記載でもよいとされています。

他方で、事実上異動の可能性がない場合では、漠然と上記のような記載をすることにより、事業の縮小や事業所の閉鎖などの事態に直面したとき、配置転換による解雇回避努力を強いられる可能性があります。

そこで、このような場合には、ただし書きなどにより移動の可能性を残しておくことも検討に値します。具体的には、「ただし、入社後〇年経過後は、適性を考慮したうえで、○○の範囲で職務内容を変更することがある。」、「ただし、新たに事業所が開設された場合には、○○の範囲で就業場所を変更することがある。」などです。

さらに、テレワークを実施ないし実施予定のある企業においては、就業場所ないし就業場所の変更の範囲にテレワークを行う場所を加えておく必要があります。

(3)②有期労働契約における通算契約期間または更新回数の上限

有期労働契約の通算契約期間または更新回数について上限の定めがある場合には、使用者は、2024年4月1日以降、契約締結時(初回の契約締結時だけでなく更新契約の締結時を含みます)に当該上限を労働者に明示する必要があります。

明示義務の対象となる契約には、定年後の継続雇用契約なども含まれているため、例えば、60歳で定年退職後に65歳までの5年間に限り継続雇用を保障する場合には、継続雇用契約の締結と更新時において、上限を明示する必要があります。

(4)③無期転換申込みをすることができる場合における無期転換申込みに関する事項および無期転換後の労働条件

2024年4月1日以降に締結する有期労働契約に関しては、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、無期の労働契約への転換申込みができる旨を書面により明示する必要があります。

また、無期転換後の労働条件は、原則として、契約期間を除いて従前と同じものになりますが、「別段の定め」を設けることで、無期転換後の労働条件の一部を転換前の労働条件から変更することが可能です。

「別段の定め」の方法は、就業規則に規定を置くか個別の労働契約で定めることが想定されますが、労働者の個別の同意がなくとも労働条件を変更できるようにするためには就業規則において「別段の定め」をしておくことが肝要です。

3 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
コロナ禍を経て、テレワークが定着してきている現状に鑑みても、就業場所の記載の仕方を見直す必要が生じてきております。読者の皆様におかれましても、就業規則等の規定を点検する必要性があるのかどうか、どのように規程を定めていけばいいのかについてご検討いただくきっかけとなれれば幸いです。

弁護士 武藤 雅之(むとう まさゆき)

第二東京弁護士会所属。
2023年弁護士登録。2024年PLAZA総合法律事務所入所。神奈川県出身。

協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

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