『ビジネス法務』2024年2月号の連載は「責任追及を見据えた従業員不正の対処法」です。その連載の第2回目は「キックバック」(執筆:木山二郎、今泉憲人、大屋広貴弁護士)です。キックバック事案は典型的な従業員不正であるものの、証拠収集に困難が伴うなど、事実関係の調査や責任追及などに一定のハードルがあります。その留意点について解説されています。
- Ⅰ キックバック事案の特徴
- 1キックバックとは
- 2証拠収集の困難性
- 3損害の立証
- Ⅱ 民事責任の追及
- 1損害賠償請求
- 2懲戒処分
- Ⅲ 刑事責任追及
- 1キックバックと刑事責任追及
- 2詐欺罪および背任罪の成立要件
- 3犯罪および犯罪行為の特定等
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 はじめに
本稿では、会社内で不正な「キックバック」が発覚した場合の事実調査の方法、責任追及の方法について解説がされています。
2 キックバックとは
キックバックとは、平たく言えば、社内の従業員が、取引先企業との間において、架空発注等の方法により企業から取引先企業に不正に金員を支出させ、自らは取引先企業やその関係者から当該金員を元手とした利得を受けるという不正行為です。
3 キックバックの事実調査
キックバックの場合、取引が架空であることなどの違法性を基礎づける証拠は、社外の取引先企業にしか存在しないことも少なくなく、証拠の収集には一定のハードルがあります。
事実調査の初動としては、不正行為者である従業員の電子メールやスケジューラー等から、取引先企業の担当者、やり取りの内容等を特定し、取引先企業からの事情聴取を早期に実施する必要があります。
4 民事責任
キックバック事案では、「取引が架空のものであったこと」を立証することに一定のハードルがあることに加え、企業が被った損害額を立証することも容易ではありません。
そこで、不正行使者が不正の事実を認めている場合には、企業が不正行使者に対して有する損害賠償請求権と、不正行使者が企業に対して有する退職金債権を相殺することによって解決を図るというケースもあります。
5 刑事責任
キックバックの刑事責任追及は、民事責任追及以上に困難とはなるものの、被害金額等の重大性に照らし、刑事責任追及が必要となるケースも想定されるところです。
キックバックの刑事責任追及の方法として、実務上は詐欺罪として処理されるケースが多く見受けられます。
詐欺罪の公訴時効期間は7年間となってはいるものの、時間が経てば経つほど証拠収集が困難となり、責任追及のハードルが高くなるため、民事責任追及同様、発覚後の迅速な対応が必要となります。
6 おわりに
今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
キックバックという言葉自体は、聞きなじみのある言葉だとは存じますが、その責任追及の方法は、民事・刑事を問わず容易ではありません。 万が一、読者の皆様においてこのような不祥事が生じてしまった場合には、一刻でも早くご相談をいただき、証拠収集の途が失われてしまわないようにしていただけましたら幸いです。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)