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【旬の判例】~第57回 「システムディほか事件」

第57回目は「システムディほか事件」です。

本件は、Y社に勤務する従業員Xが、Y社から一方的に給与を減額されたとして、減額前の給与との差額(未払賃金)の支払いを求め、争った事案です。

Xは、平成19年3月に、Y社と雇用契約を締結し、平成22年3月時点までは、Y社より、毎月、基準給23万円、能力給3万2000円、裁量労働手当5万7500円、技能手当2万7000円、住宅手当3万円の賃金が支払われていました。

ところが、Y社は、平成22年4月より、Xの給与を、毎月、基準給15万2000円、裁量労働手当を3万8000円、技能手当を3000円に減額しました。
Y社がXの給与を減額した理由は、XがY社の期待する十分な業務成果を上げることができず、その技能が著しく不足していたためというものでした。

果たして、Y社のこのような業務成果を理由とする従業員の給与の減額は認められるでしょうか。

本件において、裁判所は、そもそも、労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更するべきものである(労働契約法3条1項)とした上で、特に、賃金は労働契約の中で最も重要な労働条件であるから、使用者が労働者に対してその業務成果の不良等を理由として労働者の承諾なく賃金を減額する場合、その法的根拠が就業規則(労働者使用者間の合意)にあるというためには、就業規則においてあらかじめ減額の事由、その方法及び程度等につき具体的かつ明確な基準が定められていることが必要と解するのが相当である旨判示しました。

本件で、Y社の就業規則(賃金規定)には、「基準給は本人の経験、年齢、技能、職務遂行能力等を考慮して各人別に決定する。」、「裁量労働手当は裁量労働時間制で勤務する者に対し従事する職務の種類及び担当する業務の質及び量の負荷等を勘案して基準給の25%を基準として各人別に月額で決定支給する。」「技能手当は従業員の技能に対応して決定、支給する。」との定めは設けられていました。

Y社は、賃金規定に上記定めがあることを根拠に、Xが、期待する十分な業務成果を上げることができず、その技能が著しく不足しているとして、Xの基準給、裁量労働手当、技能手当を減額した旨説明しました。

これに対し、裁判所は、上記各規定によっても、上記各賃金が減額される要件や減じられる金額の算定基準、減額の判断をする時期及び方法等、減額に係る具体的な基準等はすべて不明であって、会社の賃金規定において、賃金の減額につき具体的かつ明確な基準が定められているものとはいえないと判断しました。

また、Y社の賃金規定には、昇給に係る規定はあるものの、降給についての規定がないことから、そもそも降給や賃金の減額というものを予定していないと判断しました。

これらのことから、結論として裁判所は、Y社が労働者の業務成果等を理由として賃金を減額することには、法的な根拠がないというべき旨判示しました。

いかがでしたでしょうか。今回は、労働者の賃金減額の可否に関する裁判例について紹介させていただきました。本裁判例で注目すべきは、就業規則により労働者の賃金を減額する場合、就業規則においてあらかじめ減額の事由、その方法及び程度等につき具体的かつ明確な基準が定められている必要がある旨判示した点です。例えば、単に、「賃金を減額する場合がある」などといった定めを設けるだけでは足りず、賃金を減額する具体的な場合について定めておかなければ、賃金減額の定めが何の効力も有しないことになってしまいます。

企業の皆様におかれましては、適切な賃金制度を運用すべく、就業規則の規定を見直すことが望ましいといえます。反対に、労働者の皆様は、具体的な定めなく賃金が減額されることがないよう、場合によっては賃金が減額された場合、法的救済を求めることが望ましいといえます。
本裁判例を参考に、公正で健全な労使関係の構築にお役立てください。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)

札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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