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【ビジネス法務】企業価値担保権制度の創設

『ビジネス法務』2024年8月号の実務解説は「企業価値担保権制度の創設」です(執筆:倉持喜史弁護士)。事業性融資の推進などに関する法律が第213回国会に提出されました。企業価値担保権は無形資産など、従来の法制度のもとでは担保権の設定が困難であった事業資産についても担保価値を認めた資金調達を可能にするものとして注目されています。本稿では、同法案の概要紹介と実務上のポイントが解説されています。

  • Ⅰ 立法の背景
  • Ⅱ 企業価値担保権の基本的な枠組み
  • Ⅲ 企業価値担保権の設定者および担保権の及ぶ対象
  • Ⅳ 企業価値担保権の設定方法および効力等
  •  1企業価値担保権信託契約の締結および登記
  •  2企業価値担保権に優先または劣後する担保権の取扱い
  •  3債務者の処分権限
  •  4一般債権者による強行執行等との関係、重複担保権の機能
  •  5個人保証等に関する制約
  •  6倒産手続における位置付け
  • Ⅴ 企業価値担保権の実行等
  •  1実行手続の概要
  •  2管財人の選出・事業の継続
  •  3事業譲渡等による換価
  •  4債権届出・調査・確定
  •  5配当
  • Ⅵ 結語

<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>

本記事では、令和6年6月に成立した事業性融資の推進等に関する法律(以下、「事業性融資推進法」といいます。)における、企業価値担保制度についての実務解説が行われています。

まず、事業性融資推進法について、不動産に対する担保権の設定や個人保証に依存した融資慣行の是正や会社の資金調達の円滑化を図り、事業の継続・成長を支え、日本経済の健全な発展に寄与することを目的として制定されました。その中でも目玉となる制度が、本記事で取り上げられている企業価値担保権制度です。

従来の融資実務について、特に、財産的信用力の乏しい企業において、経営者の個人保証や保有不動産等の資産について、担保を求められることが少なくありませんでした。もっとも、例えば、スタートアップ企業のように、不動産などの資産を保有していなくとも、技術力・ノウハウ・顧客基盤等のような無形の資産、企業価値を有する企業も少なからず存在します。また、経営者に対し、保証を要求する場合、経営者の代替わりにおける事業承継に支障をきたす要因となります。そこで、この度、有形の資産に乏しいスタートアップ企業、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開を躊躇している事業者等の資金調達を円滑化するため、無形資産を含む事業全体を担保とする企業価値担保権制度が創設されました。企業価値担保権制度の施行時期については、令和6年6月から2年半以内とされています。

企業価値担保権の内容について、まず、担保の対象は、企業の総財産(無形の資産を含む)です。次に、企業価値担保権の構造について、債務者と債権者の間に信託会社(企業価値担保権信託会社)が入ることになります。その上で、債務者と信託会社との間で、債務者の総財産を信託財産、企業価値担保権の実行の際に生じた利益の受取人を債権者(受益者)とする旨の信託契約を締結し、商業登記簿にその旨を登記することになります。

企業価値担保権設定後も、債務者は、引き続き、自己の保有する財産について、使用・収益・処分することが可能です(もっとも、重要な財産の処分等を行う場合は、信託会社の同意が必要です)。

その上で、債務者の債務の返済が滞り、企業価値担保権を実行する流れについて、①信託会社(担保権者)が裁判所に対し、企業価値担保権の実行手続の開始の申立てを行い、②裁判所が事業の経営・管理処分を担う管財人を選任し、③管財人が事業の経営や第三者に対する事業譲渡を行い、④③の対価について、債務者に融資を行った債権者(特定被担保債権者)を中心として、他の債権者への配当が行われます。

企業価値担保権について、本記事ではより詳しい解説がなされています。この機会に是非ご一読ください。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

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