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【旬の判例】~第10回 「長崎県ほか(非常勤職員)事件」

第10回は「長崎県ほか(非常勤職員)事件」です。

上司の部下に対するセクシャルハラスメント・パワーハラスメントの有無や違法性等が争われた事案です。

Xさんは、Y1県の非常勤職員でした。Xさんは、平成30年4月1日、Y1県の非常勤職員として任用され、上司のY2さんの指導の下で勤務していました。Xさんは、Y2さんからセクシャルハラスメントやパワーハラスメントを受けた旨主張し、Y2さん及びY1県に対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。

本件においてXさんが問題視したY2さんの行為を一部抜粋すると、まず、Ⅰセクシャルハラスメントについて、①Y2さんが、業務上の必要性があるときに、Xさんに至近距離で接近したり、Xさんのパソコンを操作した際にXさんの手や胸に当たった(可能性がある)こと、②Y2さんが、Xさんに対し、「俺」というくだけた呼称を使用したり、「俺じゃだめかな」「俺の前ではそういうことを言ってもいいけど」「俺の何が気にくわないのか」等と(Y2さんの指導についてXさんと口論となった際に)発言したこと等が挙げられます。

また、Ⅱパワーハラスメントについて、①Y2さんが、業務内容をXさんに説明した際、メモをとって業務内容を覚えようとしていたXさんに対し、メモをとることを禁止したこと②Y2さんが、日常的な業務をXさんに与えた際に、Xさんに一定の説明をした上で、過去の資料を提示し、自分で理解するよう努めるように指導したこと③Y2さんが、入社から2か月経過したXさんに対し、a3か月経ったら、他の職員に迷惑をかけることになるから、早くできるようにならないといけない旨を述べたり、b退職の意向を示したXさんに対し、「俺の何が気にくわないのか」「逃げるのか」「俺に対して失礼だと思わないのか」等と述べたことが挙げられます。

裁判所は、
Ⅰ-①について、(業務上の必要性があった状況下での出来事であったことを前提に、)平均的女性労働者として性的不快感を与えるものとはいえないことから、違法であるとまでは言えない、と判断しました。

Ⅰ-②について、Y2さんが「俺」という呼称を他の同僚等に対しても使用していたこと、「俺じゃだめかな」等のY2さんの発言が、Y2さんの指導の適切さやY2さんの指導の不満について確認する局面でなされたものであって、Xさんに男性らしさをアピールするためになされたものではないことから、平均的女性労働者として性的不快感を与えるものとはいえず、違法であるとは認められない、と判断しました。

Ⅱ-①について、Xさんは従前、Y2さんの説明を十分に理解できずにいたところ、メモを禁止したことも理解を困難にした要因であったと認められることから、合理的な理由なくXさんの業務習熟を妨げるものであり、違法であるというべきである、と判断しました。

Ⅱ-②について、一定の説明がなされた上で、個々の事案につき、過去の資料を確認し、参考にしながら業務を進めるよう指導、助言したというものであることから、社会通念に反する指導・助言であるとはいえない。Xさんが業務内容を理解できていなかった点について、理解できるか否かは説明を受ける側の資質・能力等も影響してくるところであるから、理解できるように教示しなければ違法であるとはいえない。よって、違法であるとはいえない、と判断しました。

Ⅱ-③について、aについては、発言内容や経緯に照らし、Xさんに対する指導ということができ、社会通念に反するものとまではいえないことから、違法であるとまではいえない、と判断しました。しかしながら、これに続くbの発言については、退職の意向を示したXさんに対し、Xさんが自身のパワーハラスメントを理由に辞めようとしているものと受け止め、自己防衛的にXさんを非難するものであることから、退職意向を示した部下に対して事情聴取する際の上司の言動として不適切であることが明らかであり、社会通念に反して違法である、と判断しました。

セクシャルハラスメントとは、「相手方の意に反する性的言動」を指します。本件のような業務上の指導の際の言動について、⑴業務上の必要性に基づくものであったのかどうか(必要性)、⑵業務上の必要性に基づくものであったとしても相手方の人格に配慮しそれを必要以上に抑圧するものでなかったかどうか(相当性)を踏まえ、⑶社会通念上許容される範囲内の指導であるかどうかが、セクシャルハラスメントの違法性の判断の指標となります。本件Ⅰ-①、Ⅰ-②も、上記業務上の必要性や行為態様の相当性を踏まえ、社会通念上許容される範囲内の指導であるかどうかが検討されています。
また、セクシャルハラスメントについて、事業主は、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じ」なければなりません(男女雇用機会均等法11条1項)。これに違反した場合、行政指導(同法29条)、公表(同法30条)を受ける可能性がある他、従業員から使用者責任や職場環境配慮義務違反を理由とする損害賠償責任を追及される可能性があるため、注意する必要があります。

そして、パワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」を指します(労働施策総合推進法30条の2第1項参照)。
本件Ⅱ-①及びⅡ-⑶bも、業務上の必要性と相当性を踏まえ、違法であるとの判断がなされています。パワーハラスメントについても、前記セクシャルハラスメントと同様の措置義務が課せられています

本件は、セクシャルハラスメント・パワーハラスメント該当性について、比較的詳細に検討がなされている点に特色があり、違法性の線引きの指標となるものと存じます。

パワーハラスメント・セクシャルハラスメントについて、行為者のみならず、事業主に対しても責任追及が及ぶ可能性があることから、適切に対処する必要があります。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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