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【旬の判例】~第17回 「Hプロジェクト事件」

第17回は「Hプロジェクト事件」です。

『アイドルの労働者性』が争点となった本件は、労働基準法(以下「労基法」という。)上の労働者性の認定について参考となるものです。

事案の概要
本件は、農産物の生産及び販売等を行うとともに、「農業アイドル」として活躍するタレントの発掘・育成に関する業務を行うプロダクション会社(以下「H社」という。)と専属マネジメント契約(以下「本件契約」という。)を締結していた亡K(当時16歳)の遺族が、H社に対し、Kは労基法上の労働者に当たるところ、本件契約に基づいてH社からKに対して支払われた報酬額が最低賃金法所定の最低賃金を下回っているとして、既払額との差額の支払いを求めた事件です。

原告ら(Kの遺族)の主張
原告らは、次の点を指摘して、Kには労働者性が認められると主張しました。
具体的には、①Kは、H社の専属タレントとして、H社の強度な指揮命令の下で芸能活動を行っていたのであるから、Kには使用従属性が認められること、②Kには業務を受けるか否かにつき諾否の自由はなかったこと、③Kは、業務の時間、場所、具体的内容等について、H社から強い指揮監督を受けていたこと、④KがH社から受領していた金員は、業務の対価としての性質を有するものであったこと、⑤KはH社が定める服務規律に従わなければならなかったことなどです。

裁判所(東京地裁令和3・9・7判決)の判断
労働者性の認定に関しては、一般的に、Ⓐ仕事の依頼への諾否の自由、Ⓑ業務運行上の指揮監督、Ⓒ時間的・場所的拘束性、Ⓓ代替性、Ⓔ報酬の算定・支払方法などが主要な判断要素とされています。
本件では、これらの判断要素に関する上記原告らの主張のうち、②諾否の自由の有無が中心的な争点となり、裁判所はこの点に関して、次のように判事してKの労基法上の労働者性を否定しました。
・Kは、H社から提案される業務イベントのうち9割程度に参加していたが、H社がKに対して提供する業務イベントについて、H社は、Kに対し、『参加』・『不参加』を選択する機会を提供していたのであり、実際、Kが『不参加』を選択した業務イベントに関してKが参加を強制されたという事実は存在しない。
・また、H社でのグループ活動の多忙さゆえに、Kのプライベートや学業の時間が圧迫されていたとしても、前述のとおり、Kには諾否の自由が存していたのであるから、H社がKに対して、活動への参加を強制していたとか、強度の指揮監督を及ぼしていたということはできない。
・また、本件契約には、就業時間に関する定めは存在しない。
・以上の事実からすれば、原告らが主張する他の事実を考慮しても、Kの労基法上の労働者は認められない。

本稿では、諾否の自由について焦点を当てましたが、上記判決では、その他にも、原告らの主張のうち④については、労務対価性が否定されており、⑤については、遅刻等を対象とした罰則規定が実際に適用されたことはなかったことが、労働者性の認定に消極方向として判断されています。これらの判断要素の検討方法については、またの機会に投稿させていただければと存じます。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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