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【旬の判例】~第23回 「ユーコーコミュニティー従業員事件」

第23回目は「ユーコーコミュニティー従業員事件」です。

本件では、上司の従業員に対するパワハラ等がありました。そこで、会社は、従業員より訴えられるリスク及びその対策として、従業員に対し、損害賠償債務が存在しないとの確認訴訟を提起しました。

そもそも、確認の利益が認められる前提として、少なくとも、確認する対象が、①自己の、②現在の、③積極的な、④権利・法律関係であることが必要です。
この事案では、④の権利・法律関係が確認対象として適切か、という点が争点となりました。

そして、裁判所は、対象となる権利が債権(債務)である場合、債権の内容を具体的に特定する必要があるとしました。
パワハラの事案の場合、㋐パワハラが行われた日時、㋑場所、㋒行為態様、㋓行為者の年齢、㋔行為者と被害を訴えている者が担当する業務の内容及び性質、㋕行為者と被害を訴えている者との関係性などを特定する必要があるとしました。

この点、会社側は、第一に、特定の社員が行った発言がパワハラに当たらない旨を主張しました。具体的には、パワハラが行われた発言の時期を「令和元年4月」と概括的に主張していました。そして、発言者の氏名は記載があったものの、職位や業務内容を主張しませんでした。また、発言内容の記載があるものの、どうやって発言したのかなどの行為態様を主張しませんでした。
これに対し、裁判所は、パワハラ行為の特定がないとして、会社側の請求を退けました。

また、会社側は、第二に、上司が優越的地位を利用して業務上必要でない業務を行わせた、というパワハラがないと主張しました。具体的には、会社は、「平成27年4月から平成30年4月」の間ではパワハラがないと主張しました。しかし、裁判所は、時期の特定が足りないとしました。また、裁判所は、会社側が、具体的な言動を主張しておらず、かつ、優越的地位にあるとの具体的主張がなかったとし、会社側の請求を退けました。

このように、会社側から、積極的にパワハラ行為がなかったことを主張することは、かなりのハードルがあることが分かります。時期の特定も、綿密に行う必要があります。

(弁護士 西口 阿里沙)

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