弁護士法人PLAZA総合法律事務所 PLAZA LOW OFFICE

【旬の判例】~第37回 「日本通運雇止め事件」

第37回は、「日本通運雇止め事件」です。

本件は、労働者の通算契約期間が5年を超える前にされた雇止め措置の適法性が争われた事件です。

1 事案の概要

平成24年に日本通運での就労を開始したAさんは、5年目の契約期間満了である平成30年まで、毎年契約を更新してきました。

しかし、日本通運は、Aさんに対して、5年目の契約更新時に、「うちとAさんとの契約は今期で終了となります。来季の契約更新はしません。」と伝え、実際、5年目の契約期間満了をもって、Aさんと日本通運との間の労働契約は終了しました(以下「本件雇止め」といいます。)。

Aさんは、その後、本件雇止めは、労働者に対して無期転換申込み権(終身雇用権)を与えて労働者の保護を図っている労働契約法18条に反して違法であると主張し、日本通運に対し、労働者としての地位確認請求を求めました。

2 無期転換申込み権と雇止め

労働契約法18条は、通算契約期間が5年を超える労働者を対象として無期転換申込み権を付与し、労働者を保護しています。

すなわち、(終身雇用が保証されていない)有期労働契約者は、雇止めの不安(有給休暇などを取得してしまうと、不真面目な社員とみなされてしまい、来期は契約の更新をしてもらえなくなってしまうのではないかという不安)を抱えながら就労をする結果、本来は自由に行使できるはずの権利行使が抑制されてしまっている状況にあることが指摘されていました。

そこで、平成25年に、労働契約法18条が施行され、通算契約期間が5年を超える労働者には、無期転換申込み権(平たく言えば、終身雇用希望請求権)が付与され、事業者は、原則としてこれに応じることが義務付けられました。

しかしながら、労働契約法18条が保護の対象としているのは、あくまでも、「通算契約期間が5年を超える労働者」なので、契約期間5年満了での雇止め対応をする企業が多く現れることになりました。

労働契約法18条の施行から5年が経過した平成30年以降、雇止めの有効性を巡る裁判が各地で起こされています。

3 本裁判所の判断

本事件で、東京高等裁判所は、以下のように判示し、本件雇止めを有効なものと判断しました(※最高裁上告中)。

①まず、労働契約法18条は、契約期間が5年を超える労働者を対象とした規定であるので、本件では、形式的には、労働契約法18条によってAさんに無期転換申込み権が与えられているものと言うことはできない。

②また、契約期間が5年を経過する前での雇止めを認めてしまうと有期労働契約者を保護するために設けられた労働契約法18条の趣旨が没却されてしまうとのAさんの主張も排斥する。

労働契約法18条は、あくまでも5年を超える期間就労をした労働者を保護しているのであって、それに満たない契約期間の労働者の処遇についてまで、企業を拘束する趣旨ではない。

③そうすると、本件雇止めは、労働契約法18条との関係では問題にならない。

④もっとも、5年未満の有期労働契約の更新についても、有期労働者が契約の更新を期待することについての合理的な理由がある場合には、その期待は保護されるべきであり、雇止めは違法となり得る(労働契約法19条2号)。

⑤しかしながら、本件では、契約1年目に締結された雇用契約書において、5年目以降の契約は保証されていない旨の記載が明確にされていたこと等の事情に照らすと、本件においてAさんに契約更新についての合理的な期待があったものと認めることはできない。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。

本事件は、最高裁への上告中であり、確定的なことは申し上げられませんが、本事件の他にも、1年目の契約締結当初において、5年目以降の更新の有無について明確な記載がされているかどうかに着目して雇止めの有効性を判断した裁判例があります(1年目の契約締結当初において更新の有無について説明していることを指摘して雇止めを適法とした横浜地川崎支判R3.3.30労判1255号76頁 / 1年目の契約締結当初においては更新の有無について記載、説明がなく、その後の契約更新時において以後の更新の有無について説明がされていたに過ぎないことを指摘して雇止めを違法と判断した山口地判R2.2.19労判1225号91頁)。

この要素だけで、雇止めの有効性が決着するわけではありませんが、1つの重要なファクターであると推察されます。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

最近のコラム