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【旬の判例】~第58回 「弁護士法人アディーレ法律事務所事件」

第58回は、弁護士法人アディーレ法律事務所事件です。【東京地裁令和3年9月16日判決】

本件では、業務停止措置を受けた事務所が従業員に対して出した自宅待機命令期間における、従業員の賃金請求の可否が争点になりました。

1 事案の概要

弁護士法人A法律事務所(以下「本件事務所」。)は、『今月中にお申し込みをいただいた場合のみ、着手金無料。』などという広告表示を2年10か月以上にも渡って掲載し続けていたことに関して、消費者庁から、平成28年2月16日、不当表示に関する措置命令を受け、さらに、弁護士会から、平成29年10月11日、2か月間の業務停止命令を受けました。

そのため、本件事務所は、当該法人に勤務していた従業員(以下「本社員」。)に対して自宅待機命令を出しました。この間、本件事務所は、自宅待機命令中の本社員に対して、休業手当相当額のみを支払っていました。

しかし、本社員は、「自分が勤務できなくなった原因は本件事務所にあり、「債権者の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)が認められるから、給与全額が支払われるべきである。」として本件事務所を提訴しました。

2 休業手当

労働者が実際に労務を提供しない限り、使用者は、賃金の支払い義務を負わないのが原則です(『ノーワーク・ノーペイの原則』)。

しかし、労働者が労務提供の意思を有しているにも関わらず、今月は業績が悪いから…などといって労働者の出社を拒否するような事態が使用者側の判断で自由に行うことができてしまうのでは、労働者の保護に欠けます。

そのため、労働基準法26条は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中の労働者に対して、その平均賃金の100分の60以上の手当てを支払わなければならない。」と定めています。

さらに、民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」が認められる場合には、賃金全額の請求が認められます。

一般的に、民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」は、労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」よりも範囲は限定的であるとされています。

3 本裁判所の判断

①民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」の解釈

民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」とは、債権者の故意または過失及び信義則上これらと同視すべき事由を言うものと解される。

②本件の事情

本件事務所は、法律の専門職として、本件不当表示が景品表示法上の有利誤認表示に該当するものであることなどを了知するべき立場にあった。

また、本件事務所は、本件不当表示に係る広告表示以外についても、弁護士会から広告の景品表示法違反についての調査を受けていたのであるから、本件不当表示の適法性について、細心の注意を払うべき立場にあった。

以上の事実からすれば、本件自宅待機命令は、本件事務所の故意または過失及び信義則上これらと同視すべき事由が原因となった本件不当表示及びそれに起因する業務停止に由来しているものと認められるから、本社員の本件事務所に対する賃金の全額請求は認められるべきである。

4 おわりに

今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。
会社都合の休業命令については、給与の6割を保証しなければならない(≒6割のみ保証すれば足りる)という御認識をもっている会社様は多くいらっしゃるかと思いますが、本件のように給与全額の保証が必要となるケースもあります。本稿をきっかけとして、対応についてご留意いただけましたら幸甚です。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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